# 2 : 犬の左肺後葉全摘出術 / 【早期発見が大事】犬の肺腫瘍
犬の肺腫瘍(肺腺癌)の摘出手術について
今回は当院で実施した犬の肺腫瘍(肺腺癌)の摘出手術についてお話しします。
犬の肺がん・肺腫瘍とは
犬の肺腫瘍は原発性肺腫瘍と転移性肺腫瘍の2種類に分けられます。
- 原発性肺腫瘍:肺に直接できる腫瘍のことで、多くは悪性腫瘍です。肺にできる腫瘍の10%未満程度です。治療として今回の症例のように手術が選択できます。
- 転移性肺腫瘍:他の臓器でできた腫瘍が肺に転移した状態です。肺にできる腫瘍の多くがこの転移性肺腫瘍です。
犬の肺がんの症状
原発性肺腫瘍の場合、初期には特に目立った症状がなく、早期の発見が困難です。現れる症状として以下のものがあります:
- 咳
- 呼吸困難
- 呼吸促拍
- 元気消失
- 食欲不振
- 体重減少
- 喀血
上記の症状が出ている場合、肺がんが進行している可能性があります。早期発見のためには、高齢犬では定期的な健康診断が重要です。
今回の症例は、特に症状がなく、偶発的にレントゲン検査で腫瘍(ピンク丸)が確認されました。腫瘍が大きくなっても症状はありませんでした。飼い主さんと治療の相談をし、外科的に切除することになりました。
外科手術による左肺後葉全摘出術
皮膚を切開した写真です。真ん中の白い部位が肋骨です。
今回は腫瘍が大きいため、肋骨を切って術野を広くします。後で切った肋骨を整復するため、予めワイヤーを通す穴を作成します。
肋骨を電気鋸のサジタルソーで切り、開胸します。
開胸すると腫瘍が確認されます。
腫瘍のある肺葉を根本から全切除します。血管はシーリングシステムを使用して止血・凝固・切除を同時に行います。心臓のすぐそばなので慎重に進めます。
肺葉切除後に血管からの出血と気管支からの空気の漏れがないか確認します。
開胸時に切った肋骨を整復し、胸腔内にドレーンを設置して閉胸します。
切除した腫瘍は病理検査の結果、悪性度の高い肺腺癌でした。
術後の経過
術後のレントゲン写真では腫瘍は認められません。黄色の矢印は胸腔内に設置したカテーテルです。術後5日目でほとんど胸水貯留がなくなったため、6日目で抜去しました。術後にも抗がん剤の投与を行い、経過を見守ります。
まとめ
犬の肺がんの最善の治療は手術で切除することです。しかし、多発性に発生していたり、大きくなり過ぎた腫瘍は切除できません。犬の肺がんの適切な治療を受けさせるためにも早期発見が大切です。
肺がんの症状として決定的なものはありませんが、動物ドックなどのレントゲン検査は早期発見につながります。また、飼い主さんが愛犬の小さな変化や症状に気付いて早期に発見できることもあるので、愛犬の日々の変化に注意してください。
獣医師:林 敬明
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