# 1 : 犬の胆嚢摘出術 / 【破裂したら緊急事態!】犬の胆嚢粘液嚢腫
【症例報告】胆嚢摘出手術について
1回目の症例紹介です。今回は、当院でよく行う「胆嚢摘出手術」についてご紹介します。胆嚢摘出が必要となる病気の一つに「胆嚢粘液嚢腫」というものがあります。この病気は犬にとって非常に深刻ですが、早期に治療を行えば、回復が見込める病気でもあります。
胆嚢粘液嚢腫とは?
「胆嚢粘液嚢腫」という病気は、犬の胆嚢にゼリー状の胆汁が溜まってしまう状態です。胆嚢は、食べ物を消化するために必要な「胆汁」を蓄える臓器です。この胆汁がうまく排出されず、溜まってしまうことで問題が起きます。最初は症状が目立たないことが多いため、飼い主さんも気づかないうちに進行してしまうことがあります。
もしこのまま放置すると、胆嚢が破裂してしまうことがあり、その場合、非常に危険な腹膜炎を引き起こすこともあります。胆汁は強い刺激を持つため、破裂すると命に関わることもあるので、早期の対応が非常に大切です。
どんな症状が出るの?
初期の段階では、ほとんど症状が見られないことが多いです。しかし、病気が進行すると、以下のような症状が現れることがあります:
- 食欲が落ちる
- 嘔吐する
- 元気がなくなる
- 黄疸(目や皮膚が黄色くなる)
- 発熱
もしも犬がぐったりしていたり、急に食欲がなくなったりした場合は、早急に獣医に相談してください。特に黄疸が見られる場合は、非常に危険なサインです。
どうしてこの病気になるの?
胆嚢粘液嚢腫が起こる原因はまだ完全には解明されていませんが、いくつかの要因が関与していると考えられています:
- 胆嚢の壁から粘液が過剰に分泌される
- 胆嚢の動きが悪くなる
- 脂肪分が多い食事
- 特定の犬種(ミニチュア・シュナウザーやシェットランド・シープドッグなど)
- ホルモンの問題(甲状腺機能低下症、クッシング症候群など)
- 細菌感染
当院では、上記の好発犬種以外にも、トイプードル、ポメラニアン、ダックスフンド、ヨークシャーテリアなどの犬種で胆嚢摘出手術が多いです。
どうやって診断するの?
胆嚢粘液嚢腫を診断するためには、エコー検査(超音波検査)を行います。エコーで胆嚢の中身を確認すると、ゼリー状の胆汁が溜まっていることがわかります。エコーは痛みもなく、安全に検査できる方法です。
例えば、正常な胆嚢(黄丸)は中身が液体の胆汁で、エコーでは黒く見えます。
しかし胆嚢粘液嚢腫(赤丸)の場合は、ゼリー状の物質が溜まっていて、エコー画像では「キウイフルーツの輪切り」や「星状」のような形に見えることがあります。
どう治療するの?
胆嚢粘液嚢腫の治療には、内科的治療と外科手術があります。内科的治療としては、胆汁の流れを良くする薬や抗菌薬、食事療法などが行われます。しかし、病気が進行してしまうと、最終的には胆嚢摘出手術が必要になることがほとんどです。
胆嚢が破裂してしまうと、手術のリスクが高まり、死亡率が高くなることがあります。したがって、手術が必要な場合は早期に行うことが非常に重要です。
外科手術による胆嚢摘出
今回の症例では、実際に胆嚢摘出手術を行いました。手術の際、開腹してみると、胆嚢(黄丸)はパンパンに膨れ上がっていました。
脆くなった胆嚢が破けないよう、慎重に胆嚢を肝臓から剥離していきます。
総胆管に閉塞がない事を確認してから胆嚢管(白丸)を切除し、胆嚢を摘出しました。
摘出した胆嚢です。
摘出した胆嚢を切ると、ゼリー状のドロドロした物質が出てきました。通常の胆汁は黄色い液体ですが、粘液嚢腫の場合はこのように異常な物質が溜まってしまいます。
術後のケア
術後の回復にも十分な注意が必要です。特にこの症例では、手術前から黄疸が強く出ていたため、術後は膵炎や血液の異常(播種性血管内凝固症候群など)の合併症が起こる可能性がありました。術後は、静脈内点滴や抗生剤、ビタミンK、抗炎症剤などを使い、慎重に経過を見守りました。
結果的に、この症例は合併症もなく順調に回復し、血液検査の数値も改善しました。食欲や元気も戻り、無事に退院することができました。
まとめ
犬の胆嚢粘液嚢腫は、初期段階ではあまり症状が現れないため、早期に気づくことが難しい病気です。しかし、定期的な健康診断や、犬の様子に異常を感じた場合は、早めに獣医師に相談することが重要です。特に、エコー検査を通じて早期発見できる病気ですので、「最近元気がない」「食欲が落ちた」と感じたら、すぐに病院を受診して下さい。
ご愛犬の健康を守るために、早期の対応が鍵となります。
その他の『胆嚢摘出手術』については、下記の【肝臓・胆嚢・脾臓外科】をクリックすると閲覧可能です。
獣医師:林 敬明
この内容は2021年3月時点の情報です。
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