林動物病院

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# 65 : 犬の尺骨切除術・断脚術 / 【尺骨の骨肉腫】

今回は尺骨にできた骨肉腫の症例です。

骨肉腫は最も悪性度の高い腫瘍の1つです。

骨にできた骨肉腫は想像を絶する痛みを伴います。

また短期間で肺転移しやすい腫瘍でもあります。

四肢にできた骨肉腫は痛みからの解放を目的とした断脚手術が一般的です。

しかし断脚手術を行ってもすでに肺転移している事が多々あります。

 

今回は13歳のスタンダードプードルで、来院時は右前肢の痛みから自力での起立も困難な状態でした。

触診で右前肢の腫れを認めたため、レントゲン検査を行ったところ尺骨の骨融解と骨増生(黄丸)が認められました。これは腫瘍を強く疑う所見です。

診断のためには患部から組織の採取が必要です。飼い主さんと話し合って、診断のための採取だけでなく、痛みからの解放にも重点を置き可能な限り腫瘍がある尺骨を切除する事にしました。

尺骨切除術

術中のレントゲン写真です。尺骨の遠位の切除ラインの限界を確認しています。

術後のレントゲンです。尺骨の腫瘍部位は切除されています。

病理検査の結果はやはり悪性腫瘍の骨肉腫でした。尺骨の切除ラインの遠位と近位の両方とも腫瘍は認められず、尺骨だけで見ると完全切除されていました。

手術後の経過です。術後1日目は全く立ち上がる事が出来なかったため、尺骨切除術ではなく、右腕の断脚手術を施した方が良かったかもしれないと後悔しました。しかし術後2日目に立ち上がり、術後3日目に自力で歩いて退院してくれました。また術後3週間で元気な姿で走り回れるほど回復してくれました。

手術から4カ月が経過したところで手術部位の軟部組織に腫れと疼痛を認めました。飼い主さんと相談して『自力歩行』と『痛みの解放』の両方に重点を置く治療をする事にしました。義足の作成を行っている装具医療器具製作所の方と相談して、肘から断脚を行い義足の装着をする事にしました。

肘からの断脚手術

義足会社の方の協力もあり、術後2週間で義足の型取りをして、術後1カ月で義足を作って頂きました。

まとめ

今回の骨肉腫という癌は骨にできた腫瘍部位を取り除いただけで治るような腫瘍ではありません。そのため今回の尺骨切除は一般的に第一選択にはならない手術方法だと思います。しかし術前の様子や年齢を考えると断脚手術を行っていた場合、自力で起立する事は不可能だったと思います。今回は患肢を温存した事で、生活の質(QOL)が格段に上がり、手術前よりも元気な姿で走り回れる程回復してくれました。

根治が難しい病気の治療法は悩みます。様々な治療法の中から飼い主さんと相談して選択をしていきますが、『本当に最適な治療法を提供できているか?』という葛藤がいつもあります。それでも動物と飼い主さんの両方にとって少しでも苦痛やストレスがない治療法を提供できたら幸いです。

 

獣医師:林 敬明