# 59 : 鼠径ヘルニア整復術 / 【ヘルニア嚢から子宮蓄膿症】
今回は鼠径ヘルニアの症例です。
『鼠径部』は太ももの付け根の部分で、『ヘルニア』は脱出を意味します。
鼠径部には後肢にいく重要な血管や神経が通る鼠径輪という穴が元から開いていますが、その穴が通常より大きいとお腹の中から、腸・膀胱・脂肪などが出てきてしまいます。鼠径ヘルニアには先天性異常と、交通事故などの外傷で後天的に起こる場合があります。
今回の症例です。左の鼠径部(赤丸)が大きく膨らんでいます。
エコー検査ではヘルニア嚢に管腔臓器(黄丸)が認められました。
鼠径ヘルニア整復手術
皮膚を切開していきます。
ヘルニア嚢の露出・切開を行っています。中には今回の原因の臓器・腹腔内の脂肪・液体が認められます。
ヘルニア嚢の中には腫大した子宮が入っていました。
子宮の頭側の卵巣は引っ張ってもヘルニア孔からは出てこないため、開腹が必要です。
通常の解剖の位置とは違う子宮が卵巣に過度なテンションをかけ、視野の確保が難しかったため、脳ベラ・シーリングデバイス・腸鉗子などを使用し手術を行いました。
ヘルニア孔を広げる事なく、卵巣と子宮を無事に全て腹腔内から出すことが出来ました。
ヘルニア孔を縫合(黄丸)した写真です。
鼠径輪の尾側には大事な血管と神経があるので、完全に閉塞はしません。
再度ヘルニアが起きないよう今回は3重に結紮を行いました。
今回の鼠径ヘルニアの中身は子宮で、摘出した子宮は化膿性子宮内膜炎を起こしていました。
術後の写真です。鼠径部の腫れは認められません。
まとめ
鼠径ヘルニアのヘルニア孔が小さい場合は、ヘルニアの部分が少し膨れる程度で問題はありませんが、ヘルニア孔が大きくなると腹腔内から腸・膀胱・子宮などが出てくる可能性があります。脱出した臓器が炎症・壊死を起こすと命に関わる事があります。ヘルニア孔が小さくても大きくなる事があるので、なるべく早期の外科手術が推奨されます。
獣医師:林 敬明
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