# 52 : 猫の心膜切除術(心膜亜全摘)・肺葉切除術 / 【細菌性化膿性心膜炎】
7歳の猫ちゃんが呼吸困難で来院されました。
レントゲン検査では胸腔内に巨大な不透過性の陰影(ピンク丸)を認めました。
一般の猫ちゃんの胸部のレントゲンと比較してみるとその違いがわかります。
エコー検査では心臓の周りに低エコー(赤丸)に見えるものが認められました。
この部位に針を刺して吸引をかけましたが、液体などの内容物はほとんど採取されませんでした。
呼吸の改善が認められなかったため、飼い主さんに状況を説明して、夜間に手術をさせて頂く事になりました。
心膜切除術(心膜亜全摘)・肺葉切除術
胸骨の正中切開を行い少し開胸したところです。まず最初に非常に大きな心嚢(水色丸)が確認されました。
肥厚した心膜(心嚢と壁側心膜)を切開すると心膜腔内に塊状と液状の膿を認めました。
心膜の切除を進め、心膜腔内の膿の塊を処理していきます。写真にあるように巨大な膿(黒矢印)の塊も出てきました。
心膜はかなり肥厚し血管も豊富だったため、心臓の近くですが、シーリングデバイスを慎重に使用して横隔神経に気を付けて心膜の全周を切除する心膜亜全摘を行いました。また、左肺の前葉前部と前葉後部、右肺の前葉は無気肺で肺の虚脱を認めたため、肺葉切除も同時に行いました。最後に心臓の周囲や胸腔内の洗浄を行い閉胸しました。
術後のレントゲン写真です。術前と比較してみると心臓の大きさの違いがわかります。
レントゲンには肺葉切除で使用したチタンクリップが写っています。
術後の検査として、心膜の病理検査では『慢性化膿性心膜炎』という報告でした。また肺の病理検査は慢性化膿性胸膜炎でした。
胸水の培養検査で細菌は検出されませんでしたが、心嚢液からはNeisseria菌が検出されました。
術後の胸水貯留は術後1日目 20㏄抜去、2日目 8.5cc、3日目は2.5ccと減少し、術後4日目で胸腔内に設置したドレーンも除去する事が出来ました。
術後数日で食欲の回復がみられ、みるみる活動的になり無事に退院しました。
まとめ
今回の猫の細菌性化膿性心膜炎は稀な病気だと思います。
獣医療ではあまり情報がなく、人での報告では細菌性化膿性心膜炎は単独で発症する事は稀で、肺炎・肺膿瘍・化膿性胸膜炎などの感染が心外膜に二次的に波及して起こると言われています。
先日のセミナーでこの症例について質問をさせて頂きました。猫では犬と違い細菌性の肺炎が認められる事があり、それが原因で今回の細菌性化膿性心膜炎が起きた可能性があると教えて頂きました。
今回の症例の猫ちゃんは重度の呼吸困難があり危険な状態での開胸手術でしたが、頑張って侵襲性の高い手術を乗り越えてくれました。術後の経過も順調で元気な姿で退院し、退院後は病気以前のような生活が送れています。
獣医師:林 敬明
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