# 48 : 猫の骨盤拡張術 / 【骨盤骨折による排尿・排便障害】
今回は保護猫の骨盤拡張術の症例です。
初診時の血液検査ではPCV が6.9%( 正常は30%以上)と重度の貧血があったため、まず輸血を行いました。
その他の症状として、自力排尿が出来ず、下痢便が認められました。
レントゲン検査を行ったところ、骨盤の恥骨前枝が左右とも骨折(赤丸)をしていました。そのため骨盤腔が狭くなり便が通過できず、結腸に多量の宿便が認められました。(水色矢印)
下痢便のみが、宿便の隙間を通り肛門から垂れ流しになっている状況でした。
縦方向のレントゲン写真です。
恥骨が骨折をしていて変位(赤矢印)しています。
骨折している左右の恥骨前枝の幅が7.1mmしかありません。便の直径が2cm以上あるので、便が出ないはずです。
輸血をしてから、3週間がたった段階でPCVが27%と安定してきたので、骨盤腔を広げる手術を行う事にしました。
骨盤拡張術
手術の合併症の一つに尿道損傷があります。
術前に尿道の位置を把握するため、尿道カテーテルにワイヤー(緑矢印)を通し、尿道の位置を確認しました。
恥骨ギリギリに尿道(赤矢印)が通っています。この部位は特に丁寧・慎重に手術を進める必要がありそうです。
骨折してから日にちがたっているので、骨から筋肉を剥離していくのが大変です。
術中もレントゲン撮影をして、場所を確認しながら手技を進めていきます。
右側の恥骨前枝の骨折部位(黒矢印)が露出された写真です。
恥骨体を切除して、坐骨結合を切断しました。
切断した坐骨を広げています。(黄矢印)
広げた坐骨結合はロッキングプレートで固定しました。
術後のレントゲン写真です。
術前は7.1mmだった幅が約3倍の2.08cmまで広がっています。
骨盤骨折により、骨盤腔が狭くなり自力排便ができなかった猫ちゃんでしたが、手術の次の日から自力で排便が出来るようになりました。
嬉しい事に手術前は自力で排尿する事も出来ず、毎日膀胱を圧迫して尿を出していましたが、手術の次の日から排尿も自力で出来るようになりました。
術後10日目では高いところに飛び乗るほど後ろ足の力も戻ってくれました。
獣医師:林 敬明
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