林動物病院

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# 36 : 猫の肛門嚢切除術 / 【お尻から出る臭いアレ】

 

今回は肛門嚢切除術についてお話します。

肛門嚢とは、皆さんが動物病院で『お尻絞り』とか『肛門腺絞り』と言っている、アノ強烈な臭いの分泌液が溜まっている袋の正式名称です。

肛門嚢の場所は、肛門を時計の中心とした時に4時8時に位置しています。(上の時計の写真で光っている位置です)

通常、この分泌物は排便とともに排泄されます。

自然に排泄されにくい犬や猫では定期的に絞ってあげることが必要です。

しかし、肛門嚢の中に細菌が入ったり、袋の出口が詰まったりすることで肛門嚢に炎症が起こる事があります。酷い場合は破裂をして、肛門の脇の皮膚に穴が開き膿が出てくる事があります。

治療は抗生物質や消炎剤などの内服で治療を行います。通常は内科治療だけ良くなる事がほとんどです。しかし繰り返し肛門嚢炎を起こしたり、破裂したりする動物ではこの肛門嚢を外科的に切除してあげる事も一つの選択肢です。

 

肛門嚢切除術

手術中の肛門嚢をわかりやすくするために肛門嚢の中に下記の写真のような安全で非毒性のポリマーゲルを肛門嚢に注入します。ゲルは2~4分で肛門嚢内で硬化し、肛門嚢と周辺の組織を識別可能にします。
手術時間と肛門嚢の取り残しのリスクを減らします。

ゲルを肛門嚢の出口から注入(黄丸内の緑がゲル)した写真です

手術前の写真です。肛門に近い部位の手術は汚染しやすいので、しっかり消毒をします。また手術中に便が出てこないように直腸には詰め物をしています。

左の肛門嚢を摘出している写真です。

肛門嚢の中にゲルが入っていると、肛門嚢を把握しやすく、確実に分離できます。分離した肛門嚢は肛門嚢の根本の開口部で結紮をして切除します。

この肛門嚢を取り残してしまいますと、分泌物が出続けて炎症を起こして皮膚に穴があいてしまいます。

そのため取り残しがないよう慎重に確実に分離しなくてはいけない繊細な手術です。

反対(右側)も同様に肛門嚢を分離し切除していきます。

両側の肛門嚢の摘出を終えて、皮下組織の縫合が終わった状態です。

皮膚を縫合して終了です。

一時的に便の切れが悪くなる事がありますが、しばらくすれば元に戻ります。

摘出した肛門嚢です。

まとめ

今回は肛門嚢切除術について説明させていただきました。

肛門嚢は一番上の写真で光っている4時と8時に位置しています。時々溜まっていないか触って確認してあげて下さい。

肛門嚢に分泌物が溜まっていると、お尻を舐めたり、床にこすり付けるような仕草をすることがあります。その場合は定期的に肛門嚢を絞ってあげる必要があります。

その部位を触るだけで痛みや怒るような仕草がある場合、肛門嚢に炎症が起きている可能性があります。無理はせずかかりつけの病院で見てもらう事をお勧めします。

肛門嚢炎や肛門嚢の破裂は動物にとってかなり痛みを伴います。くり返す場合は手術で摘出してあげることも解決策の一つです。

 

 

 

獣医師:林 敬明