# 66 : 口唇の形成手術 / 【感電による口唇の壊死】
室内外の猫ちゃんにとって、電気コードはとても魅力的な遊び道具です。しかしコードの外側のカバーを嚙みちぎってしまうと感電する可能性があります。
感電は接触部位の火傷や神経原性肺水腫を起こす事があるので大変危険です。
今回の症例の猫ちゃんも電気コードを噛んで感電してしまい来院されました。
受診時には肺水腫とを起こし、口唇・口腔粘膜・舌には著しい損傷が認められました。
肺水腫は治療の甲斐あって数日かけ改善しました。しかし次の問題は壊死をした口唇です。外観をなるべく正常に近い状態に戻すために形成手術をさせて頂く事になりました。
口唇の形成手術
術前の写真です。上側の口唇壊死部が脱落して上顎骨の一部が見えています。上顎骨の一部も壊死を起こし切歯(前歯)が抜け落ちています。また下側の口唇は外側にめくれてしまっていて、上顎同様に骨が壊死し、切歯の数本がない状態です。舌の壊死部は自然に脱落しました。
1回目の手術
上側:上顎骨の壊死部を削り、動揺歯は抜歯しました。上顎の口唇は左右から前進皮弁を行い、デブリード処置をしてから鼻の下で縫合しました。
下側:上顎同様、下顎骨の壊死部を削り、動揺歯の抜歯を行いました。外側にめくれてしまった口唇を内側に矯正しようと試みましたが、縫合できる組織がありませんでした。そのため下顎骨の吻側に2か所下穴を開けて吸収糸を通し下顎の口唇の皮下組織と縫合して外側にめくれた口唇を正常に近い位置に矯正しました。
自力での食事が困難だったため、経鼻カテーテルを設置していました。しかし術後にこのチューブが引っ張られ、鼻の下の縫合部が裂開をしてしまったためもう一度手術をすることになりました。
2回目の手術
今度は左側のみ前進皮弁を作り鼻の下で縫合しました。今度は経鼻カテーテルではなく、胃瘻チューブを同時に設置しました。
術後の写真です。上の口唇を鼻の下で縫合しているので、剥き出しだった上顎は見えていません。
また外側にめくれていた口唇も内側に矯正されていて、露出されていた下顎骨はうまく隠れています。
術後2週間(14日後)の写真です。傷が徐々に乾いてきている状態です。左の鼻から出ているチューブは、左の鼻孔が狭かったので、閉塞防止のため前回の手術の2日後に設置しました。
術後1カ月後の写真です。左の鼻のチューブは抜去し、自力での食事が出来るようになりました。
術後2か月後に胃瘻チューブを抜去した時の写真です。
胃瘻チューブ跡の抜糸を行い今回の一連の治療は終了としました。
まとめ
猫ちゃんにとって電気コードは好奇心が刺激されるおもちゃです。猫ちゃんにとって危険な電気コードが遊びの対象にならないように
- 使用していないときにはコンセントを抜く。
- コンセントや電気コードにカバーをかける。
- 留守中はケージの中で過ごしてもらう。
などの工夫をしてあげて下さい。
獣医師:林 敬明
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