# 37 : 犬の膀胱腫瘍摘出術 / 膀胱腫瘍で一番多い【移行上皮癌】
犬の膀胱にできる腫瘍の多くは悪性です。その中でも『移行上皮癌』がもっとも多く発生します。
今回は移行上皮癌の症例について話します。
発見は定期的な動物ドックでした。
腹部のエコー検査で膀胱三角部(尿管や尿道がある部位)に腫瘤(黄丸内)を見つけました。
細胞診の検査を行いましたが、直ちに癌と診断できる細胞は採取されませんでした。
その他の検査として移行上皮癌を検出するBRAF遺伝子変異検査を行いましたが、変異は検出はされませんでした。
NSAIDsの内服で経過を追っていきましたが、徐々に腫瘤が増大していったため手術をする事になりました。
術前の手術計画では腫瘤は膀胱の全層ごと切除する予定でしたが、開腹して膀胱を直接目視してみると、腫瘤(水色矢印)は後膀胱動静脈(黒矢印)の直下に存在していたため、後膀胱動静脈を温存するため全層での切除は諦めました。
腫瘤に対して、膀胱の内側からアプローチするため膀胱を切開します。
黄丸の中に腫瘤が確認されます。
腫瘤をなるべく根本から切除しました。
病理検査の結果は悪性の移行上皮癌でした。しかも高グレードに相当する腫瘍でした。しかし腫瘍組織は膀胱壁への浸潤はなく、粘膜上皮内にとどまっていたため、今回の手術で切り取れているとの報告でした。
術後3年以上経過した膀胱のエコー写真です。腫瘍は認められず(水色丸)経過は順調ですが、今後も注意深い経過観察が必要になります。
。
まとめ
今回話した移行上皮癌は、犬にとって最も多い悪性の膀胱腫瘍です。
移行上皮癌は最も攻撃的な性質をもつ腫瘍の一つと言われていて、膀胱壁深くに浸潤して腹腔内に播種したり、肺やリンパ節へ転移する事もあります。
今回のように膀胱三角にできた移行上皮癌の手術として、通常は膀胱全摘手術が選択されます。尿を溜める膀胱がなくなるため、尿管を膀胱以外の場所に繋げますが術後に合併症を伴う事もあります。
どんな腫瘍も早期発見が一番です。血尿や頻尿の原因のほとんどは感染や結石などの膀胱炎です。しかし膀胱腫瘍の可能性もあるので、愛犬・愛猫の尿に血が混ざっていたり、何度もトイレに行く場合はかかりつけの動物病院を受診して下さい。
獣医師:林 敬明
カテゴリ
- 外科 (84)
- 軟部外科 (59)
- 整形外科 (25)
- 胸部外科 (4)
- 歯科口腔外科 (6)
- 耳科手術 (1)
- 呼吸器外科 (6)
- 消化器外科 (10)
- 泌尿器外科 (6)
- 肝臓・胆嚢・脾臓外科 (12)
- 内分泌外科 (1)
- 生殖器外科 (11)
- 眼科手術 (6)
- ヘルニア整復手術 (6)
- 腫瘍摘出手術 (19)
- 内視鏡 (3)
- 内科 (2)
- その他 (1)
アーカイブ
- 2024年11月 (1)
- 2024年10月 (3)
- 2024年9月 (3)
- 2024年8月 (3)
- 2024年7月 (3)
- 2024年6月 (3)
- 2024年5月 (3)
- 2024年4月 (3)
- 2024年3月 (3)
- 2024年2月 (3)
- 2024年1月 (3)
- 2023年12月 (2)
- 2023年11月 (2)
- 2023年10月 (2)
- 2023年9月 (3)
- 2023年8月 (2)
- 2023年7月 (2)
- 2023年6月 (2)
- 2023年5月 (3)
- 2023年4月 (2)
- 2023年3月 (2)
- 2023年2月 (2)
- 2023年1月 (1)
- 2022年12月 (1)
- 2022年11月 (1)
- 2022年10月 (1)
- 2022年9月 (1)
- 2022年8月 (1)
- 2022年7月 (2)
- 2022年6月 (1)
- 2022年5月 (1)
- 2022年4月 (2)
- 2022年3月 (1)
- 2022年2月 (2)
- 2022年1月 (3)
- 2021年12月 (1)
- 2021年11月 (2)
- 2021年10月 (1)
- 2021年9月 (1)
- 2021年8月 (1)
- 2021年7月 (2)
- 2021年6月 (2)
- 2021年5月 (1)
- 2021年4月 (1)
- 2021年3月 (2)