林動物病院

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# 28 : 整形外科用骨プレートを用いた子猫の漏斗胸 整復術 / 【子猫の先天性奇形による呼吸困難】

今回は猫の漏斗胸の整復手術について紹介します。

 

漏斗胸とは胸骨と肋軟骨の奇形により、胸骨が内側にくぼみ胸郭が狭くなる先天性の病気です。

それにより、肺が潰され十分に広がる事が出来なかったり、心臓が圧迫されるため呼吸困難、運動不耐性、発咳、発育不全などの症状を示します。

 

重度な漏斗胸では飼い主さんが胸骨を指で触ってもわかるほど凹んでいる動物もいます。

術前の消毒中の写真です。消毒液が溜っている場所が最陥没部位です。

 

本症例のレントゲン写真です。胸骨が背側に変異(赤矢印)しています。

通常は正中に位置している心臓ですが、胸骨に押され左側に変異して胸壁に接している状態です。(緑矢印)

椎体にも先天性の奇形(ピンク矢印)も認められました。

漏斗胸の重症度分類として、『FSI』と『VI』という測定方法がありますが、この診断の重症度と動物の症状が必ずしも比例するわけではありません。そのため、手術を行う判断は重症度分類だけでなく、動物の臨床症状もとても大切になります。

今回の症例は通常時でも努力性呼吸があり、活発に動くとすぐに呼吸困難になってしまうため手術を行う事になりました。

 

漏斗胸の整復手術

漏斗胸は比較的珍しい病気です。

そのためいくつもの手術方法が報告されていますが、確立していないのが現状です。

報告されている手術方法

①装具を胸郭外に装着する

②胸骨に沿ってプレートの内固定

③肋軟骨の緊縫固定法

④肋軟骨緊縫法とプレートの併用

⑤胸骨骨切り

⑥肋軟骨部分切除

などが報告されています。それぞれにメリット・デメリットがあります。

人医療での漏斗胸の手術方法ですが、以前は胸骨反転法やラビッチ法などが行われていましたが、現在はNuss法という手術方法がメインとなっています。

今回の症例はこのNuss法と原理的に非常に類似した3種類の術式を準備して手術に臨みました。

術中に胸骨の可動域をみて、そのうちの1つを選択し、整形外科で使用するプレートを正常な胸郭の形になるよう加工して胸骨と肋軟骨に内固定しました。

 

 

術後の横から見たレントゲン写真です。黄色矢印が今回使用したプレートです。

胸骨が正常な位置に固定されています。

術後の仰向けのレントゲン写真です。

手術前は心臓が胸骨に押され左の胸壁に接触していましたが、圧迫から解放され心臓も正常な位置に戻ろうとして胸壁から離れています。(ピンク矢印)

術後は術前に比べ明らかな呼吸の改善が認められました。

 

今回の症例は生後11週、体重920gで手術を行いました。漏斗胸の影響で他の兄弟より体格が小さかったのですが、これからどんどん成長して他の兄弟と同じように元気に育って欲しいです。

 

まとめ

漏斗胸が軽度な場合は保存治療が優先されますが、重度で呼吸困難などの症状がある場合は積極的な外科手術が推奨されます。

外科手術を選択しない場合、将来的には肺高血圧や右心不全などを起こすと報告があります。

しかし手術時期がとても大事で、成長期に行いたい手術手技になります。

仔猫の呼吸がおかしい場合や、胸を触って胸骨が凹んでいると感じたらすぐに近くの動物病院で診察してもらってください。

 

 

 

獣医師:林 敬明