# 24 : 膝蓋骨内方脱臼整復術 / 【小型犬に多い、膝のお皿が緩い】
膝蓋骨脱臼は膝蓋骨が正常な位置から外れ脱臼してしまう状態を言います。
膝蓋骨は『パテラ』や『お皿』などと言われ、膝の屈曲運動に大切な役割を持っています。
膝蓋骨が脱臼すると跛行などの症状が出る事があります。
トイプードル、ポメラニアン、ヨークシャテリア、チワワなどの小型犬に多く見られます。
正常な膝蓋骨は大腿骨(太ももの骨)の滑車溝という溝にはまっています。そして太ももの筋肉 - 膝蓋骨 - 膝蓋靭帯が直線状に並び、膝蓋靭帯は脛骨稜(すねの骨の出っ張り)に付着しています。
小型犬種はこの膝蓋骨が内側に脱臼してしまう子が多いです。
膝蓋骨脱臼の原因
・膝蓋骨がはまっている溝が浅い。
・脛骨が内旋する事により、膝蓋骨が内側に引っ張られる。
・大腿骨の湾曲
などと言われていますが、はっきりとした原因はわかっていなく、複合的な原因で起こると言われています。
膝蓋骨脱臼の分類
グレードⅠ~Ⅳまでの4段階に分けられます。
グレードⅠ:膝蓋骨は正常の位置にあり、ほとんど脱臼はしません。
グレードⅡ:膝蓋骨は正常の位置にあるが、容易に脱臼を起こす。
グレードⅢ:膝蓋骨は常に脱臼を起こしていて、整復してもすぐに脱臼してしまう。
グレードⅣ:膝蓋骨は常に脱臼をしていて、整復が出来ない状態。
グレードの数字が大きくなるほど病態が進行し、症状が悪化します。
手術適応
手術の適応も様々な意見があり、明確に決まってはいません。
現時点(2022年6月)で、当院の膝蓋骨内方脱臼の手術適応は以下になります。
①症状がある場合。(グレード関係なし)
・疼痛、跛行、間欠的挙上、座るときに足を投げ出す、時々足を後ろに伸ばす(パテラを戻している)、歩様異常
②症状がない5歳以下のグレードⅢ・Ⅳ
③進行していく膝蓋骨内方脱臼
④前十字靭帯断裂の併発
膝蓋骨の治療
内科治療と外科治療があります。
内科治療:体重管理、消炎鎮痛剤、サプリメント、レーザー治療、傷んだ軟骨修復の注射などがありますが、どれも根本治療ではなく、今後も痛い膝と付き合っていかなくてはいけません。また膝蓋骨の脱臼があると、15~20%で前十字靭帯の断裂を起こすと言われています。
外科治療:手術で膝蓋骨を外れないようにする。ほとんどの症例で一生を楽に過ごせます。
今回の手術の話をしていきます。
上記で述べたように膝蓋骨が脱臼する理由は様々な原因が考えられます。その為、その症例の膝の状態に合わせて、いくつかの方法を組み合わせて行います。
今回の症例は下記の4つの術式を組み合わせて行いました。
①滑車溝形成術【ブロック状造溝術】
・膝蓋骨が滑るレールの溝を深くして外れにくくします。
②脛骨粗面転移術
・脛骨が内旋しているので、膝蓋靭帯の付着部位の骨(脛骨稜)を切って外側にずらしピンで止めます。膝蓋骨が内側に引っ張られる事を解消できます。
③関節包縫縮
・内側に脱臼する事により、外側の関節包が伸びてしまっています。伸びた関節包を縫縮する事により、膝蓋骨を正常な位置に安定化する事が出来ます。
④縫工筋解放術
・膝蓋骨を内側に必要以上に引っ張る筋肉を切離します。
膝蓋骨内方脱臼整復手術
膝蓋骨のレールの役割をする滑車溝(黄矢印)を見てみると、浅い溝が認められました。
何度も脱臼を繰り返していたせいで、軟骨の一部に潰瘍(黒矢印)が認められます。
滑車溝形成手術を行い溝を深くしました。
脛骨粗面転移術です。脛骨稜を切り、外側にずらし細い2本のピン(黄色)で固定します。強度を増すために、それぞれ違う角度で刺入します。
脛骨粗面転移術のピンを側面から見たレントゲン写真です。
縫工筋解放術。膝蓋骨を内側に引っ張る筋肉を剥がします。鉗子で掴んでいるのが剥がした縫工筋です。
関節包を縫縮して手術は終了しました。
手術前のレントゲン写真です。正常な膝蓋骨(黄矢印)に比較して、左の膝蓋骨(赤矢印)が内側に脱臼しているのがわかります。
術後のレントゲン写真です。左の膝蓋骨(赤矢印)が正常な位置に収まっています。
まとめ
今回の膝蓋骨習慣性脱臼ですが、特に小型犬で多く、子犬(4~6ヶ月)の頃からよく見られる病気です。
普段から、愛犬の歩き方や走り方、日常生活の動きを観察し、痛みやスキップなどの異常が認められた場合は早めに動物病院に受診してください。
獣医師:林 敬明
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