犬の症状
痒がる
犬の皮膚病には、さまざまな原因と種類があります。当院の外来でも特に多いのが皮膚病です。湿度の高い6月から9月は特に皮膚のトラブルが多いシーズンです。
皮膚病の原因は多岐にわたります。感染症(細菌・真菌・寄生虫・常在菌の異常繁殖)、アレルギー、アトピー、内分泌疾患、自己免疫疾患、遺伝、腫瘍などさまざまです。
治療に関しても、すぐに反応して良くなる皮膚病もあれば、治療に時間がかかるものもあります。また、柴犬で多くみられるアトピー性皮膚炎などは、生涯を通してうまく付き合っていくような皮膚病も存在します。
皮膚の常在菌のブドウ球菌が異常に増殖する事によって起こる膿皮症は、夏場の高温多湿時期に多く認められます。症状は発赤、ニキビ様、環状のフケ、かゆみなどです。
食物アレルギーやアトピー性皮膚炎では強い痒みがでます。痒みの出る場所は、顔面(眼・口の周り・耳)、足先、脇や鼠径部など特定の部分に現れる傾向があります。食物アレルギーで痒みが出る年齢は生後3ヵ月から1歳が多く、アトピー性皮膚炎の好発年齢は6ヵ月から3歳です。
特に1歳未満で上記の部分に痒みが出ている場合は、食べているフードに含まれているタンパク質に反応して痒みが出る食物アレルギーの可能性もあります。
皮膚病の検査には、被毛検査、掻把検査、細胞診、細菌感受性検査、血液検査、内分泌検査、アレルギー検査(リンパ球・IgE)皮膚病理検査、などがあります。
脱毛
脱毛の原因としては、感染症、ホルモン疾患、腫瘍、アトピー、脂漏症、免疫疾患、ミネラル欠乏、アロペシアXなどがあります。
それぞれ病気の症状としては、痒み、左右対称性の脱毛、飲水量の増加、皮膚のベタつき、過剰なフケ、しこりなどがあります。
胴体としっぽが脱毛(顔や足先は脱毛しません)する、アロペシアXはポメラニアンに多い為、ポメラニアン脱毛症と呼ばれる事もあります。
耳を痒がる・頭を振る
耳をかく動作や、頭を振る仕草は、耳に異常が起きている可能性があります。
外耳炎は、夏場の高温多湿の季節・垂れている耳・耳の中に毛が多い犬に多く認められます。
耳の中に黒い耳垢が大量にたまり、非常に強い痒みの場合、耳ダニ(別名:耳疥癬・ミミヒゼンダニ)感染症の可能性があります。他に外耳炎・中耳炎、食物アレルギー・アトピー性皮膚炎、寄生虫、異物、腫瘍などで耳を痒がります。
耳を強く掻いたり、擦り付けると、耳介が腫れる耳血腫になることもあります。
日常的に耳垢の量や色、また耳の中の臭いをチェックするよう心掛けて下さい。
下痢をしている
食べ物を変更したり、食事やおやつの量、ストレスなどで下痢をすることはあります。
その他の下痢の原因として、感染症、炎症性腸疾患、腫瘍、中毒、食物アレルギー、肝臓疾患、腎臓疾患、出血性腸炎、膵外分泌不全などがあります。
気をつける症状として、水のような下痢、1日に何度も下痢を繰り返す、多量の出血が混じる、下痢以外の症状として、嘔吐、食欲不振、元気消失などが認められる場合は受診をおすすめします。
嘔吐
空腹時や勢いよく食べた後の嘔吐はあまり心配しなくて大丈夫です。病気の嘔吐の原因としては、胃腸炎、膵炎、食物アレルギー、感染症、腎機能障害、肝機能障害、感染性腸疾患、腸閉塞、腫瘍、ホルモン疾患、誤食誤飲などがあります。繰り返し嘔吐がある場合は病気の可能性があります。
吐こうとしているが吐けない
犬は私達が想像もしていない物を食べる事が多々あります。竹串やトウモロコシの芯、果物や梅干の種、ヒトの医薬品、石、砂、靴下などの布類、紐など、身近にあるものを食べる事が多いです。
診断は触診、エコー検査、レントゲン(X線)検査、バリウム検査などで診断を行います。処置は異物の種類と場所によって催吐処置(異物を嘔吐させる処置)、内視鏡による除去、もしくは胃切開などの外科手術などから最適な治療を選択します。その他、液体や中毒を起こす可能性がある異物を誤飲した場合には胃洗浄することもあります。また、異物による中毒症状などを起こしてしまった場合は解毒剤の投与や点滴治療などを行います。
異物誤飲が食品や薬物の場合は、内容の表示がある袋や箱も持参して来院して下さい。
咳が出る
■ケンネルコフ
伝染性の呼吸器疾患の総称です。伝染性気管支炎とも呼ばれ、原因はウイルス、細菌、マイコプラズマなど様々です。6ヵ月齢までの仔犬が影響を受けやすく、重症化すると、気管支炎や肺炎などを引き起こします。
■気管虚脱
呼吸の際に柔らかくなった気管が変形してつぶれてしまい、「ガーガー」とアヒルのような異常な呼吸音や、咳をします。時に呼吸困難を起こす事もあります。ヨークシャーテリア、ポメラニアン、チワワ、そしてトイ・プードルなどの小型犬でよく見られます。
その他にも、肺炎、肺水腫、肺癌、食道内異物、心臓病、鼻炎などで咳が出る事があります。
呼吸が苦しそう
犬は1分間に15~30回ほど呼吸をします。
激しい運動、興奮、緊張、高い気温での早い呼吸やパンティングは、異常がなくても認められます。しかし普段とは違う荒く苦しそうな呼吸をしている場合は体に異常が起きています。
原因として、気管虚脱、感染症、呼吸器の腫瘍や異物、短頭種気道症候群、感染症、心臓疾患、肺水腫、肺炎、肺腫瘍、胸水、熱射病など様々あります。近年人気のある、小型犬の気管虚脱は当院でもよく診察されている疾患です。
舌にチアノーゼ(青紫色)が出ている時は気道閉塞、心不全、気胸などの疑いがあるのですぐに受診して下さい。
お腹が膨れている
食べ過ぎや肥満、便秘、妊娠などでもお腹は膨れる事があります。しかし、子宮蓄膿症、腫瘍、胃捻転、クッシング症候群、腹水などでもお腹が膨れる事があります。
症状としては、呼吸が苦しい、元気消失、食欲減退、多飲などがあります。そのような症状の時はなるべく早い来院が勧められます。
水をよく飲む
以前に比べ、よく水を飲む場合は様々な原因が考えられます。1日の飲水量が体重1kgあたり100ml以上の場合は多飲と言えます。
原因として糖尿病、腎臓病、クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)、子宮蓄膿症、尿崩症などがあります。
糖尿病の初期症状は食欲があるのに、痩せていく。糖尿病が進行して糖尿病のケトアシドーシスになると、食欲や元気の低下も起こります。
腎臓病は薄い排尿、食欲低下、元気消失、進行すると、口臭や下痢、痙攣などを起こします。
クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)は多飲の他に、多食、皮膚の菲薄化、腹部膨満、左右対称性脱毛などが認められる事があります。
子宮蓄膿症は未避妊の犬で起こる可能性があります。9歳以上の未避妊の犬の3頭に2頭は子宮蓄膿症になるとも言われています。これは避妊手術で予防する事が出来ます。
頻尿(何度もトイレに行く)
■頻繁にトイレへ行く原因
- ・細菌性膀胱炎:細菌が膀胱に入り込むことで起こります。
- ・特発性膀胱炎:精神的なストレスが関与して起こります。
- ・膀胱結石:体質やミネラルの過剰摂取で起こります。
- ・膀胱腫瘍:犬の多くは移行上皮癌という悪性の腫瘍です。
尿検査や画像検査(レントゲン検査・エコー検査)等で診断します。
尿が出ない(何度もトイレには行くが…)
排尿には体にとって毒となる老廃物を排出するという役割があります。
その尿が1日出ないと危険な状態になります。そして 2日出ないと命を落とす可能性もあります。
■尿が出ない原因
- ・尿石症:感染症や食事が原因でなります。頻尿や血尿などの症状を伴うことがあり、雄で尿道に詰まることが多いです。
- ・前立腺肥大や前立腺腫瘍:前立腺肥大は去勢手術をしていない雄で認められる事があります。
- ・移行上皮癌:犬の膀胱腫瘍の大半を占めます。尿道や尿管にも波及し、血尿や頻尿、排尿障害などが起こります。
- ・会陰ヘルニア:肛門の周りの会陰部に骨盤内の臓器が飛び出す状態です。膀胱がはみ出ると排尿障害が見られます。とても危険な状態です。
尿が出ない時は緊急性が高いのでなるべく早く来院して下さい。
尿の量が多い
以前に比べ排尿の量が増えたと感じる場合は様々な原因が考えられます。糖尿病、腎臓病、クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)、子宮蓄膿症、尿崩症などがあります。
糖尿病の初期は食欲があるのに痩せていく。進行して糖尿病のケトアシドーシスになると、食欲や元気の低下も起こります。
腎臓病は薄い排尿、食欲低下、元気消失、進行すると、口臭や便秘、下痢、痙攣などを起こします。
クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)は多飲の他に、多食、皮膚の菲薄化、腹部膨満、左右対称性脱毛などが認められる事があります。
子宮蓄膿症は未避妊の犬で起こる可能性があります。9歳以上の未避妊の3頭に2頭は子宮蓄膿症になるとも言われています。これは避妊手術で予防する事が出来ます。
尿の色が赤い(赤、褐色、黄色)
尿の色が赤く見える原因として①出血、②ヘモグロビン、③ビリルビンなどがあります。
- ①泌尿器からの出血です。腎臓、尿管、膀胱、尿道からの出血になり、原因は感染、特発性、腫瘍、結石、炎症、などです。区別するためには画像検査や尿沈渣の検査が必要になります。
- ②ヘモグロビン尿は赤や褐色に見え、溶血を示唆する事があります。タマネギ中毒や免疫性溶血性貧血などがあります。
- ③ビリルビン尿は肝細胞の障害や胆汁のうっ滞で濃い黄色やオレンジ色に見える事があります。
特に②と③のヘモグロビン尿とビリルビン尿は危険な状態なので、経過観察をしていると生死にかかわる事もあります。
目が痛そう・目を閉じている
目の痛みで考えられる主な病気として、結膜炎・角膜炎・乾性角結膜炎(ドライアイ)・ぶどう膜炎、緑内障などがあります。原因はまつげの異常、外傷や異物、細菌やウイルスなどの感染、免疫異常、機能的構造、先天性など多岐にわたります。生涯点眼が必要な病気や進行すると失明する病気もあるので、愛犬の目が痛そうな時は早めの来院が勧められます。
眼が赤い
眼が赤いのは、血管や血液の色が見えていることによります。原因は炎症による充血や出血が多いです。原因として結膜炎、角膜炎、乾性角結膜炎(ドライアイ)、前房出血、前部ぶどう膜炎、緑内障などがあります。
眼が白い
眼が白いのは、本来透明な部分である、角膜、前房、水晶体、硝子体などが白く濁っている場合に認められます。代表的な疾患として白内障があります。他の病気として、角膜浮腫、角膜潰瘍、重度な前部ぶどう膜炎、核硬化症、水晶体前方脱臼、星状硝子体症などがあります。
眼が緑色
眼が緑色に見えるのは、瞳孔が広がり、眼底からの反射によってみられます。網膜剥離、進行性網膜変性症、緑内障などがあります。緑内障は眼圧が上がり痛みを伴います。
目やにが出る
少量の白色・灰色・黒色・茶色の目やにであれば異常はありませんが、目やにの量が急に増えたり、濃い黄色や緑色の目やに、粘稠度があったり、眼球にべったりつく目やには異常です。結膜炎・角膜炎・乾性角結膜炎(ドライアイ)、ブドウ膜炎、緑内障等が疑われます。
口が臭い・歯石が付いている
口臭がする場合は口の中をよくチェックして下さい。口臭の原因として、多いのは歯垢の中の細菌が原因の歯肉炎や歯周病です。その他にも口腔内腫瘍でも口臭がきつくなり、よだれや出血が認められる事があります。口臭は口の中の問題だけではなく、腎機能不全、肝機能不全、胃腸の疾患などでも認められます。
口の中や歯のケアが不十分な場合、歯に歯垢が付き、歯垢は数日で歯石に変わります。歯石になると家で取り除く事が出来なくなります。
歯石が付くと、歯肉炎や歯周病のリスクが高まります。また歯周病になると心臓や腎臓にも病気を引き起こす可能性もあります。歯石の除去は全身麻酔をかけて行います。
日頃から正しい歯のケアで予防する事が大切です。
痙攣(けいれん)・発作
愛犬に痙攣がみられたら飼い主さんはびっくりすると思います。てんかんの場合はたいてい数分でおさまりますが、何回も痙攣やひきつけを繰り返したり、発作の時間が長い場合は緊急を要するので、すぐに来院して下さい。
痙攣の原因として、脳内の問題のてんかん・脳炎・脳腫瘍・水頭症や、脳外の問題によりてんかん様発作にみえる腎機能不全・肝機能不全・低血糖などがあります。
しこりがある
犬も中年齢以降になると腫瘍の発生率が高くなります。腫瘍と聞くと癌(がん)をイメージする方も多いと思いますが、腫瘍には良性の腫瘍もありますので、良性か悪性かを見極めることが大事です。確定診断をするには、腫瘍を切除して行う病理検査が必要ですが、細い注射針でしこりの細胞を少量採って行う細胞診でも、ある程度どのような腫瘍かわかる事があります。
しこりや腫瘍として考えられるのは乳腺腫瘍・脂肪種・組織球腫・肥満細胞腫や、体表リンパ節が腫れるリンパ腫などがあります。
腫瘍の治療として、外科手術・化学療法(抗ガン剤)・放射線治療などがあります。
飼い主さんが愛犬の体にしこりを発見したら早めの受診と検査がとても大切になります。